12-お願い.......たすけて.............

「青軌道鉄道関連企業改編法案 衆議院本会議にて可決.....か」
UR本社、鉄道事業部長室で押売新聞に目を通しながら樋口がボヤいた。
今夜の終電後夜間作業の為に出勤してきた樋口は、日中の出来事について知らない。が、部下伝いでそれとない事を耳にしていたようで、やはりといった具合だった。
ソファーの向かい側には、対極的に顔色が真っ青な小沼と青山が並んで座っている。

「あの、これってつまり政府が介入して、中小企業を減らそうってことですよね?」
会議の場にいながらも、上手く話が飲み込めずに居た天王州は誰となく尋ねる。
「簡単に言っちまえばそういうこった。まあ近年は多種多様な事業者が現れては消えていくって繰返しだったし、当然の帰結点っちゃあそうかもしんねえんだけどなあ」
江戸っ子べらんめぇ口調と低い声色が特徴的なその声の主である樋口が答えた。
「でも政府がこれを実現させたところで何の得があるんでしょうか?私にはむしろ、対象民間企業から恨みを買うようにしか思えないんですが......」
こりゃあ俺の感、なんだが.....と、前置きした上で、新聞を机に置いた樋口が説明を始めた。



[ 2016/03/01 19:56 ] OS | TB(-) | CM(0)

11-天変地異


天王州はこの日、天城駅に隣接するUR本社の応接会議室で資料を配っていた。
表紙には『青軌道関連企業の統廃合について』と描かれており、朝一番で「午前いっぱいまでに冊子にしてほしい」と秘書室に訪れた清水営業部長は徹夜明けなのか、非常に顔色が悪かった。
どうってことない内容だろうと思っていたので、特段と資料には目を通していない。
そもそも総司令付き秘書官は会社経営や鉄道運行の一切に関与できない。だから知ったところで猫に小判なのだ。
それでも、やはり憧れである運輸指令の職に就きたいという気持ちは捨てきれず、日々モヤモヤしていた。

応接会議室は、大きな机を挟んで両者が対面する形で椅子が並んでいる。
入り口側にはURの鉄道事業部長である福遠を筆頭に、営業部長の清水、技術開発局長の青山、総務部長代理として参加している橘、そして以前居酒屋で一緒だった夕立製作所の小沼と、初老ほどの男性が一名、という顔ぶれ。
なぜかUR側に座る小沼も、やはりどこか顔色が悪く落ち着かない様子だった。
よく見れば、普段から表情筋も姿勢も弛んでいる福遠すら眉間に皺を寄せていた。
一方の窓側に座ってる面々の中で辛うじて知っているのは、以前乗務区時代に写真で見たことのある元総司令の大河内くらいで、他についてはテレビかなんかでみたことあるような......そんな印象だった。

一通り資料とお茶を配り終わった天王州は会議室を出ようとしたところで、福遠にとめられた。
「お前は今後の為にも此処で話を聞いていけ」
普段から『天王州さん』と呼ばれているだけに、お前と言われるのが新鮮で、そして少し恐怖を感じた。


[ 2016/02/24 17:59 ] OS | TB(-) | CM(0)

10-うっかりと重圧

7月末に、大人の事情で中央工場より返却された14系がその姿を何処かに消して、代わりに欧州の機関車が入場した夕立製作所は再び活気に溢れていた。
技術者でありながらも、鉄道を専門として知識を有していない従業員が大半を占める夕立にとって、14系の製造はもちろん、通常の委託車両整備だって悲鳴があがるものだが、その度に井上かおりが皆に懇切丁寧に指導してどうにか回っている。

数年前、小沼がURの技開局を退職しココに夕立を立ち上げると決意すると、当時部下だった井上は追いかけるように辞表を提出し後を追ってきた。
20代と若く頭の回転が早いわけではないのだが、確かな知識と人の良さでUR時代から第一線を担ってくれた彼女は今、従業員に向かって図面を広げアレコレと説明している。
その光景を少し後ろから眺めていた小沼は、とても申し訳ない気持ちに溺れていた。

「....今が8月9日ですから、残りは2ヶ月。既にERFAより図面の一部を受け取り、浜名鐵工さんが金輪製造を開始しました。もちろんコレがすんなり上手くいくとは限りませんが......とにかく、頑張っていきましょう!!!」
井上がそう発破を掛けると、従業員達は「よーし!!」「やるかー!!」等と口にして1日の作業を開始した。

「ひとみさん、おはようございます!!今日も一日ご安全に、宜しくお願いします!!」
井上はいつも、誰にでも明るく振舞っていて、誰も彼女の弱音を聞いたことがなかった。
何度、彼女に助けられたことか。そして私は彼女を幸せにしてあげられるのだろうか。
そんなことを考えながら小沼は4472に赴こうとする井上を止め、奥につまれた一斗缶数十個を指差して尋ねた。
「かおり........あれ、頼んでいたのと違う奴なんだけど.......」
「えっ」
それは4472を塗装しお色直しをする為の新しい塗料"のはずだった"。

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[ 2016/02/19 00:18 ] OS | TB(-) | CM(0)

09-それは当たり前のこと

この世界は現実である。
故に、魔法使いや錬金術師はもちろん、猫型ロボットや顔がついて意思をもった機関車が走りまわっているわけがない。
だからこそ、後部座席でマイペースに鼻歌を歌っている彼女をキャットピープルか何かだと思ってしまった。
キャットピープルとはファンタジーな世界でいうところの「猫女」であり、いわば猫と人間のハーフである。
もちろん、彼女はれっきとした人間である。

欧州鉄道貨物協会(ERFA)運転主任補佐の真希波・マリ・イラストリアスに、小沼は気まずい車中をどうしようかと当たり障りのない質問を繰り返していた。
「失礼ですが、真希波さんのご両親は........」
「両親?.....ああ、母がイギリス、父が日本人ー」
「随分と流暢な日本語ですが......」
「そりゃあ、日本とイギリスを往復してたらどっちも覚えるでしょー」
なるほど.....と小沼は納得した。さすがにファンタジー少女ではなかったようだ。
小沼は、バックミラー越しに真希波を観察する。
ERFAの主任補佐を勤めているとは思えない、制服を着せて高校生だといわせれば納得してしまう、その若すぎる容姿に同じ女性として何か感じるところがあった。
もちろん御年43歳を迎える立派な淑女たる小沼も、初対面の天王州に10歳ほど若く見られる容姿の持ち主なのだが。
ついでに彼女が歌っている歌は昭和の歌謡曲「ひとりじゃないの」で、なんともいえない選曲であった。


[ 2016/02/03 00:40 ] OS | TB(-) | CM(0)

08-英国の猫女


「--おい、暁」
事務所に戻った雅は工場内の休憩室で携帯を取り出すと、応じた相手がもしもしと言う前に開口した。
それは、よろしく相手を畳み込むかの勢いだったと、周りに居た作業員が感じるほどの声色であった。
『おはよー、朝早くからどないした?』
「工場裏の留置線に置かれた英国製蒸気機関車について、といえば分かるか?」
『C-33?......あ、ああ!!あれな!!あれ、ホンマはウチんとこの下請けの下請けの下請けの従業員の彼女のお父さんの知り合いの隣の家で買っている白ヤギのペットショップの店主の友人の.....ええっと、確かペットショップの店主の副業でやってる町工場からの依頼品でな』
中央工の下請けでもある暁メンテックの更に下請けの下請けの下請けがあることとか、もう殆どそれ無関係じゃないかとか、よくそこまで把握してたなとかの類のツッコミをしたい衝動に駆られたが、なにか試されているようにも感じたのでスルーすることにした。
そもそも、関西弁で半ば愉快そうに話す暁が業務について冗談を言ったことがない、つまりは信じがたい内容でも信じるしかないのだ。
「その.....ペットショップの主人の町工場の品がどうしてここにあるんだ?」
『その町工場潰れたんよ。んで巡り巡ってウチにきたんやけど、みるからにURの品やし、だったら雅んとこに任せたほうがって思って-』
「だったら事前に相談してくれよ......」
すまんすまん、と愉快そうに誤る相手に殺意すら芽生えてくるのだが、雅はここでも言いたい事を飲み込む。
そのうちストレスで禿げるんじゃないか、とか胃薬が手放せなくなるんじゃないか、と要らぬ心配もするが・・・
「頼むよ、俺の大事なパートナーなんだから」
『お、おぅ......後で関連書類送るわ......』
暁メンテックからFAXが送られてきたのはその日の午後遅くだった。


[ 2016/01/21 06:03 ] OS | TB(-) | CM(0)