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地元に戻ってきたのは昨年、浅木が親戚の葬儀に出席する際に休みを取って一緒に帰省した以来だ。
この街は便利でも不便でもない普通の街だったのだが、22歳から昨年までの4年間訪れない間に街並みはだいぶ変わっていた。駅のいたるところで工事が行われ、駅の正面にあったビルもリニューアル工事だかが進んでいた。のだが、1年たった現在はそれらの工事も終わり、ガラス張りの高層ビルやショッピングモールが並び、駅前ロータリーも綺麗で大きなものに変わっていた。あるビルのテナントには東京で有名な菓子屋なんかが入っている。良い意味で変わった地元を目の前に、竜宮城から戻ってきた浦島太郎の気持ちが少し分かった気がした。

「会場、駅横のあのホテルだよね....?」
浅木がどことなく目線をやりながらそう言った。その表情は少し満足げで、どうやらハマっていた携帯ゲームをクリアできたらしい。が、ソレとは対照的に発した言葉には重さを感じた。その言葉を下に引っ張っている原因はおおよそだが予想は付いている。しかしそのバッグを持って同窓会に参加すると決意したからには、もうソレは吹っ切れたんじゃないのか。
時間もちょうどなので、このまま会場まで行こうとすると、後のほうから浅木を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとドレスを来た女性が2人。どうやら同級生らしい。俺は「いってこいよ」と浅木の背中を軽く叩いて見送った。どうやら会場までは一人でいくしかないようだ。





「さゆりー!!久しぶりだね、どれくらい振り!?」
薫に背中を叩かれた私は「じゃあまた後で」と言葉を残し、不安を引き連れたまま、同じテニス部だった優梨子と莉奈と合流した。莉奈は旦那との間に2人の娘を授かり幸せ真っ最中の主婦。優梨子はバツイチながら2人の娘を育てるシングルママだ。2人ともこの地元でそれなりの人生を送っているみたいで、時々LINEで近況報告がてら当時の仲間の話を聞く。優梨子はどちらかというと男に飢えているようで、今回の同窓会でいい男を引っこ抜いてやる!!と数日前活き込んでいた。どちらかというと経済的な不安と幼い娘達を育ててくれる支えが欲しい、という感じで下心はない、と信じたい。

「てか、さっき一緒にいたのって、もしかして水蓮寺くん......?」
「え、あー、うん。」
莉奈にそう言われて、あれが薫だと教えたくなくて、でも同窓会にいけばバレるな、と諦めて言葉を濁しつつ答えた。あれ、なんで私本当のこと言いたくないって思ったんだろう。別に私の彼氏でもなければ、莉奈には旦那がいるっていうのに。
「え、まじ!?あのオッサン!?嘘でしょ!?」
やっぱり、と納得した顔の莉奈とは対照的に、優梨子はその驚きを隠せず、競争で亀に負けた兎のような顔をしていた。それをみて私も莉奈もクスっと笑った。
「えーなにアイツ東京いったらあんなにイケメンになって、しかもスタイル抜群の美人のさゆりと7年も一緒に暮らして、でも彼氏でも旦那でもないってなんなの!?え、なんなの!?二人は何がしたいの!?どういう関係なの!?セフレなの!?なんなら私にも頂戴よ!!!!!」
「もー、優梨子人前でみっともないよー(笑)」
優梨子は血眼にして私に問い詰めてくる。その形相はまるで般若のような、どこか愛くるしさがある。
「薫とはなんだろうね、セフレかもしれないし、友達かもしれないし、彼氏かもしれないし.....ワカンナイや(笑)」
私はそう誤魔化し、引き連れていた不安を少しだけ置いて、2人と一緒にホテルへと歩き出した。

道中も優梨子は羨ましいだのその立場交換してくれだの、しまいには既成事実をつくって旦那として迎え入れようとまでいっていた。もちろん私も莉奈もそれが冗談だと分かっていたので、笑ったり、どうしたら攻略できるか、なんてくだらない話をした。一方で莉奈は美男美女でお似合いだよ、と言ってくれた。確かに薫はカッコイイ。中学の時にはこんなこと思うわけがなかった。
その他にも莉奈の家庭の、私たちからすればノロケ話を聞かされたり、優梨子は騙された男の愚痴と、でも娘達は可愛いと話してくれた。2人とも今をしっかり生きているようで、どこか活き活きとしている。

「ようこそ、アルマークホテルへ」
会場であるホテルのフロントで同窓会への参加の旨を伝えると、会場となる部屋まで係員が案内してくれた。しかしホテルの名前といい、この係員の声がどうも先ほどクリアしたゲームにでていた声優の蒼月昇に似ている気がしてならないのだが。
「お兄さん、いま彼女とかいるんですか?」と悪ノリで優梨子が問い、莉奈がそれを制した。学生時代よくみた光景にどこか懐かしさを感じ、出発前の不安と緊張は大分なくなっている気がした。そうだ、何かあっても私には彼女達がいてくれるんだ。
そんな優梨子の質問に戸惑い、笑いながらも、エレベーターであがった33階のパーティールームへと案内された。今更帰ることはできない。今夜は今夜で楽しもう。そう腹をくくって扉をあけた。
[ 2015/07/16 18:34 ] (無題) | TB(-) | CM(0)

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「ちょっとー、私のポーチしらない?」
家を出る時間ぎりぎりになって特別な時に使っていたポーチが見当たらないことに気づいた私は
洗面台で髭を剃る薫に聞いては見るものの、返事がない。

7年という月日はとても長い。かつては3ヶ月だけお世話になるつもりが気づけば半年を過ぎ、さらに生物的本能とでもいうのだろうか、性交をしてしまって以来、薫とは腐れ縁だ。
客観的にみれば付き合いの長い婚期を逃したカップルと思われても可笑しくはないが、別に私と薫は付き合っていないし、ただお互いが生きていく中で足りない欲求を補い合っているだけの関係である。それ以上でもそれ以下でもない、と自分自身に言い聞かせつつ、この同居生活を過ごしてきた。

話を元に戻そう。紛失したポーチだが、基本的に私が使った後に薫が片付けたことは間違いない。自分でいうのもアレだが、私は片づけが苦手だ。女子だから出来て当たり前とか言われてもそんなことは断じてない。自信をもち大きな声で「私は片付けが苦手だ」といえる。
それとは対照的に薫は軽度ではあるものの、散らかっているのが大嫌いな性格である。男だから実は気にしないタイプじゃないか等と言われても私が知ったことではない。とにかく常に綺麗でなければ嫌だというタイプだ。中学から現在に至るまで性格も価値観も身体も相性がいい私と薫だが、この点だけは不思議と相違がみられる。
つまり7年間で増えた私物を、良くも悪くも勝手に片付けるのは薫なわけで、収納場所は薫しか知らないのだ。

「ねー、私のポーチ!!」
クローゼットを漁りながら更に声を張るが返事はない。屍のようだ。
と、去年親戚の葬儀に着た喪服の奥に見覚えないショルダーバッグを捕らえた。古いデザインではあるが一度も使われた形跡がなく非常にきれいな状態だ。どこかで見たことがあるような気もするのだが思い出せない。ただ思い出せるのは同居がはじまった当時の荷物の中にはこんなバッグをもってきた覚えはない。すると同居開始以降に買ったものなのだろうが、思い出せる限りの記憶を辿っても買った覚えはない。かといって薫のものとは思えない。

「おい、もう出ないと新幹線間に合わないぞ」
「あ、うん.......すぐ行く。」
返事のない動く屍が支度を済ませたらしい。とりあえず見つからないポーチの代わりにこのバッグを使うことにして急いで荷物をまとめる。そんなに大荷物というわけではないので時間はかからない。
しかしながら薫はカッコイイ。成人式で再開するまでそんなこと一切思ったことなかったのに、いち早く東京に出て垢抜けたのか、それとも東京で何か悪い物でも食べてしまったのか、自分にあうオシャレという技を覚えたようで、特にこの3~4年は年齢と顔が一致してきたこともあって、完全な大人の男の風格がでていた。中学時代はオッサンだの言われていたのに。
(同居の話がなければきっと薫とゴールインしてたんだろうな.....)
玄関で普段より少し低めのヒールを履く。
(....でも同居してなきゃ薫の魅力に気づかなかったんだろうな..........)
なんて事を考えながら、玄関の鍵を閉める。念の為言っておくがココは薫のアパートであり、そして私は彼女でも奥さんでもないのだが。





新幹線の車内、浅木はずっと携帯電話に支線を落としていた。どうやらハマっている携帯ゲームがもうすぐクリアできるらしい。
同窓会には出来れば行きたくなかったのだが、一部の人間は僕と浅木の同居の話を知っているから、浅木が行くのに僕が行かないというのもいかがなものかと思った。てっきり浅木も行かないものだと思っていたからこれはまさにノーマークだった。
しかしながら浅木は美人である。中学ではテニス部部長ということもあって目立っていたし、高校では話を聞く限りモテていたようで。どちらかというと当時から子ギャル路線だった浅木は、若さという元気があった成人式前と比べると、東京の人混みに揉まれ、社会という沼にはまったようで、この7年で随分と変わった。大人しい女性という印象だ。控えめながらも確かな胸の膨らみと落ち着いた栗色の髪は肩甲骨あたりまで伸びていて、外に出れば通り過ぎる人はみな、浅木をみる。正直な話、一緒に歩いていて悪い気分ではない。

「そういえばお前、そのバッグ......」
と、口に出す寸前で一度とまる。浅木は携帯ゲームの攻略に夢中で、おそらくここで話しかけると色々と面倒なことになるだろう、という結論に至ると、言葉を飲み込んだ。まさか同窓会で浅木がそのバッグを使うとは思わなかったのだが、参加宣言といいこのバッグを使っているあたり、おそらくアレはもう気にしていないのだろう。
(女って強いなぁ.......)
そんなことを考えていると、新幹線はトンネルに入っていった。

[ 2015/05/14 10:28 ] (無題) | TB(-) | CM(0)

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小説家になりたいんだ--
その一言が彼女を傷つけ、そして今の僕を生んだ。



浅木との同居生活も7年目の春を迎えた。
中学校時代の陸上部部長だった僕と女子テニス部部長だった浅木は部長会議などで一緒になることが多く、互いに互いのことを色々話せる間柄だった。それは2人の感性や価値観が似ていたからかもしれない。それとテニス部だった彼女のことも含めて、中学卒業後も定期的に連絡を取っていた。

彼女と別れてからは何処からか生まれてくる罪の意識もあって連絡はなかったのだが、成人式で再会してから再度連絡を取るようになった。その頃、僕は東京で就職し日々弾力を失いつつも何か新鮮さを探し働いていて、浅木は大学に通いつつ、歌手という夢を追いかけて同じくして上京していた。その後、浅木が金銭的に困っているのを見かねて冗談半分で同居に誘ったのだが、よっぽど切羽詰まっていたのかすぐに荷物をまとめて僕が住む1LDKのアパートにやってきた。お互いに男女としての壁よりは、同じ人間性を持った同士、浅木は特に抵抗がなかったようだった。

しかし7年である。お互い今年で27歳。両親から結婚がどうの孫がどうのと心配という嫌味を言われ始め、もちろんお互いにそういう人が今までいなかったわけではないのだけれど、僕に関して言えばどうしても過去が足枷として悪意を持って僕の気持ちを後ろ向きにしていた。浅木もそれを理解しているようで特に何か言ってくるわけでもなく、というよりかお互いに過去の話はしないように避けていた。
おそらく浅木が結婚に踏み込めないのは夢を諦めきれないということよりも、ある晩酔った勢いで友人の一線を越えてしまったことが原因だろう。確かにいい年した男女が一つ部屋で一緒にいればそういうことが起きないわけではないが、お互いに日々のストレスと不満に埋もれたような顔のまま、しかしながら心のどこか埋まらないモノを埋めたいという人間的欲求を満たしたくて、ほとんど毎日のように身体を重ねてしまった。それが更に日々の弾力と新鮮さを失っていくのだが。

「ねえ、中学の同窓会の招待きた?」
ある日のお昼。2人で寝るには少し狭いベッドの上でお互いの肌が触れあい温かさが伝わる距離にいた浅木が携帯を触りながらそう聞いてきた。
「そういえば拓真から連絡きてたな....お前いく?」
「私は........いくよ。」
僕はぼんやりと、かつて白かった、今は少し汚れた天井をみつつ「そうか」とだけ答えた。その場で「じゃあいこう」とはいえなかったのは、もしかしたら彼女が来るんじゃないかという期待と不安と過去への執着があったからで、おそらく浅木は言葉にしなくても分かっているだろう。
「でもさ.......私もアンタもそろそろ一歩進まなきゃ、だよね。」

陽は暖かく、そして冬の寒さを乗り越えたピンク色の蕾が咲き、そして散るまであと1ヶ月。
[ 2015/04/02 23:47 ] (無題) | TB(-) | CM(0)